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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ EMA事務局通信605 2016/12/05 ■□ 【 コ ラ ム 第 52 回 】 『行動経済学から考えるフィルタリングの利用普及』 株式会社KDDI総合研究所 健康・医療ICTグループ 研究主査 齋藤 長行 □■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 会員及び関係者各位 モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)事務局です。 平素は当機構の活動にご協力いただき誠にありがとうございます。 今回は、株式会社KDDI総合研究所 健康・医療ICTグループ 研究 主査 齋藤 長行 様にご執筆いただきました。 コラム第52回をお届けいたします。 ━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━ ◆◇◆ 『行動経済学から考えるフィルタリングの利用普及』 ◆◇◆ ━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━…━━ 株式会社KDDI総合研究所 健康・医療ICTグループ 研究主査 齋藤 長行 読者の皆さんがご存知のように、日本では18歳未満の青少年の携帯 電話には、原則としてフィルタリングを設定しなければなりません。 青少年インターネット環境整備法第17条では、携帯電話事業者は保 護者の「特別な申し出」がない限り、フィルタリングの利用を条件 として携帯電話が販売されることが規定されております。 しかし、内閣府(2016)の調査では、2015年のスマートフォンにおけ るフィルタリングの利用率が45.2%に留まっていることを報告して います。これに対する要因の一つとして、保護者が携帯電話の契約 時に「特別な申し出」を行っていることが挙げられます。 では、保護者が「特別な申し出」をしてしまう要因とは何なのでし ょうか?本稿では、制度的な側面からフィルタリングの利用普及を 考えてみたいと思います。保護者の「特別な申し出」がない限りフ ィルタリングは原則利用しなければならないという第17条の主旨を 行動経済学の観点から考えると、このことはオプトアウト方式のデ フォルトルールが規定されていると言えます。 このオプトアウト方式とは、デフォルトの設定に合意しているもの とみなされる推定合意による意思決定プロセスのことを指します。 諸外国の例で見ると、オプトアウト方式は、年金加入率を高めるた めや臓器提供率を高めるために社会制度として導入され、顕著な効 果が報告されております。 しかし、日本におけるフィルタリング普及政策においては、オプト アウト方式のデフォルトルールが導入されているにもかかわらず、 十分にその機能が果たされているとは言えない状況です。 行動経済学者のカーネマンは、著書『ソフト&スロー』において、 デフォルトの選択肢は「標準としてすんなり受け入れられるように 設計されている」ものであり、「デフォルトからオプトアウトする ことは、自らの強い意思を示す行為であり、熟考を必要とし、より 多くの責任を伴い、何かことがあった場合には、デフォルトのまま にしておいたときより強く後悔することになる」なると指摘してい ます。 カーネマンの指摘から日本のフィルタリングの普及政策を考えてみ ると、保護者による「特別な申し出」は、「自らの強い意思を示す 行為」となっており、「熟考を必要」とし、「多くの責任を伴」う ことが自覚されており、もしフィルタリングを利用しなかった場合 には、そのことを「強く後悔する」ものになっていることが重要と なると言えるでしょう。 -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ 【齋藤 長行(さいとう ながゆき)プロフィール】 青山学院大学客員研究員、経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局 (STI)ポリシーアナリスト、国立国会図書館非常勤研究員等を経て、 現在、KDDI総合研究所・研究主査、お茶の水女子大学非常勤講師。 安心ネットづくり促進協議会特別会員、一般社団法人インターネッ ト・コンテンツ監査監視機構(I-ROI)理事。総務省の「青少年のイ ンターネット・リテラシー指標に関する有識者検討会」では委員に 就任し、「青少年がインターネットを安全に安心して活用するため のリテラシー指標(ILAS)」の策定に加わる。現在、OECD科学技術イ ノベーション局(STI)デジタル経済政策委員会(CDEP) デジタル経済 計測分析作業部会(WPMADE)において、国際的なインターネット上の 青少年保護に関する取組を行っている。 -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ ≪コラムについて≫ 「青少年のインターネット利用」をテーマに配信しております。 EMA事務局通信をご購読いただいている皆様と、広範かつ深い知 識・情報を共有することにより、さまざまな角度から「青少年の インターネット利用」について考えていきたいと思っております。 コラムへのご意見・ご感想・ご要望等ございましたら、ぜひとも 事務局までメールにてお寄せください。 宛先:EMA事務局 メールアドレス:jmkアットマークema.or.jp どうぞよろしくお願い申し上げます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発信元/一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA) 〒106-0031 東京都港区西麻布1-4-38 千歳ビル3階 http://ema.mcf.or.jp/ http://ema.mcf.or.jp/m/ (携帯サイト) http://ema-edu.mcf.or.jp/ (啓発・教育ポータル) ◆事務局通信の登録及び解除は下記Webサイトからお願いします。 http://ema.mcf.or.jp/news/index.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ |